基礎講座|精密ポンプ技術 6-2. 液体の気化(蒸発)

液体の気化(蒸発)

前項の「7-1. キャビテーションについて」のビールの例は、液中に溶けていた炭酸ガスが圧力の低下に伴って液の外に逃げ出すことを示していました。

ここでは、「液中に溶けている(溶存)ガスが逃げるのではなく、液体そのものがガス化(気化)することがある」ということを見てみましょう。
ビールは水、アルコールそして炭酸ガスの混合物ですが、話を簡単にするために純粋な水を考えることにします。

水は100℃で沸騰します。これは一般常識とされていますが、果して本当でしょうか?
実は100℃で沸騰するというのは、周囲の圧力が大気圧(1気圧=0.1013MPa)のときだけです。
水(もっとミクロにみれば水分子)に熱を加えていくと激しく運動するようになります。温度が低いうちは水分子同士が互いに手をつなぎ合っているのですが、温度がある程度以上になると、運動が激しくなりすぎて手が離れてしまいます。
水が沸騰するということは、手が離れてしまった水中の分子(水蒸気)が水面上の力に打ち勝って、大量に外に飛び出すことです。そして、この時の温度を沸点といいます。

(図1)のように密閉されていない(開放)容器の場合、水面上の力というのは空気の圧力(大気圧)のことです。
ここでは大気圧(1気圧)に打ち勝って水が沸騰し始める温度が100℃という訳です。そしてこの条件では、いったん沸騰を始めると水が完全になくなってしまうまで温度は100℃のままです。

(図2)のように、ふたをかぶせて密閉状態にしてみましょう。
この状態で更に熱を加えていくと、ふたを開けたときと違って温度がどんどん上昇し、ついには100℃を超えてしまいます。密閉状態では容器中のガスの圧力が上昇して水面を押さえつけるために、内部の水は100℃になっても沸騰しないのです。

具体的にいえば、水は大気圧(0.1MPa)で約100℃、0.2MPaで約120℃、0.37MPaではおよそ140℃で沸騰します。
この原理を利用したものに圧力釜があります。
これは釜の内部を高圧(といっても大気圧+0.1MPa以内)にすることにより、100℃以上の温度で炊飯しようとするものです。この結果、短時間でおいしいご飯が炊けることになります。

さて、今度は全く逆のことを考えてみましょう。
圧力釜とは反対に、密閉容器内の圧力をどんどん下げていくのです。方法としては、真空ポンプで容器中の空気を抜いていきます。(図3)

 

 

(図4)のように、たとえば容器内部の圧力を-0.05MPaまで低下させたとします。この場合、液面を押さえる力が弱まり、内部の水は沸騰しやすくなります。つまり沸点が下がり、100℃以下の温度で水が沸騰するようになります。また当然のことですが、圧力が低下すればするほど沸点も下がってきます。
具体的には、水は-0.05MPaで約80℃、-0.08MPaで約60℃、-0.09MPaではおよそ45℃で沸騰します。

ダイヤフラムポンプの原理を思い出してください。
ダイヤフラムポンプのダイヤフラムが後方に移動するとき、ポンプヘッド内部に負圧が発生する。

ダイヤフラムポンプのポンプヘッド内部では、(図4)と同じことが起こっているのです。
たとえば、60℃の水(お湯)をダイヤフラムポンプで移送している場合、もし、ポンプヘッド内部や吸込側配管で0.08MPa程度の圧力低下が起これば、この水は沸騰してしまうということです。
また、ポンプ内部で水が沸騰するということは、ポンプヘッド内部にガスが入ってくるということですから、ダイヤフラムポンプとしての効率が大幅に低下してしまいます。

このように、ポンプのポンプヘッドや吸込側配管の内部で圧力が低下(負圧が発生)することにより液がガス化することを「キャビテーション現象」といいます。

ダイヤフラムポンプの脈動による慣性抵抗の発生については、「2-3. 脈動 慣性抵抗」にて、詳しく述べました。吐出側の慣性抵抗は圧力の増大をもたらしましたが、吸込側の慣性抵抗は圧力の降下をもたらすのです。したがって、吸込側の慣性抵抗が過大になると、圧力降下が大きくなり、液の沸点が下がり気化しやすくなります。つまり、キャビテーション現象が発生します。

キャビテーションの発生を助長する要因としては、慣性抵抗の場合と同様に

  • a)
    吸い込み配管(ホース)が長いほど発生しやすい。
  • b)
    吸い込み配管(ホース)内径が細いほど発生しやすい。
  • c)
    ストローク(吸い込み)のスピードが速いほど発生しやすい。
  • d)
    ポンプの吸い込み高さが高いほど発生しやすい。(図1)

     

     

 

 

などがあげられます。

これは、一般のダイヤフラムポンプの吸込側であっても2連式スムーズフローポンプの吸込側であっても同じことがいえます。ただし、2連式スムーズフローポンプは吸い込みスピードが速いために、脈動による慣性抵抗は、同じ吐出量であれば、一般のダイヤフラムポンプよりも更に大きくなります。つまり2連式スムーズフローポンプは、配管設計が不適切だとキャビテーションが起こりやすいということです。

また、キャビテーションの発生を助長する要因として、a)b)c)d)の他に次のことがあげられます。これらは液体の性質に起因するものです。

  • e)
    液体の温度が高いほど発生しやすい。
  • f)
    気化しやすい(沸点が低い:揮発性がある)液体ほど発生しやすい。たとえばメタノール、アセトンなどの低分子量の有機溶剤。