基礎講座|滅菌・殺菌 13-2. 耐食性について

次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性の塩素系薬剤であり、移送に際して接液部材質の耐食性に充分配慮する必要があります。ここでは、次亜塩素酸ナトリウムに対する金属、樹脂、ゴム、セラミックの耐食性について考えてみましょう。

金属

完全耐食ではありませんが実用上有効なものとして、チタン、ハステロイCがあります。ただし両者の併用は避けてください。異種金属が電解質溶液を介して接合されると電位の差に基づく腐食が発生します。
ステンレス鋼(SUS304、316等)は直ちに腐食されます。

樹脂

完全耐食の材質としてテフロン(PTFE、PFA)、PVdF等のフッ素樹脂、実用上有効なものにPP、PVC、アクリル等があります。ただし、成形品の場合は環境応力割れ(薬液と応力が共存する場合に発生する割れ)等に留意する必要があります。また直射日光下で使用してはいけません。

ゴム

特殊フッ素ゴムは良好な耐食性を持ちますが、一般のフッ素ゴムは、使用しない方がよいでしょう。その他のゴムは、次亜塩素酸ナトリウムの種類や温度等の環境条件によっては溶けることがあるので使用できないと考えたほうが無難です。ただし超高性能フッ素ゴムはPTFEと同等の耐食性があります。

セラミック

アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニアは耐食性が良好です。ただしアルミナに関しては純度に注意する必要があります。(アルミナ含有率99%以上)

ゴムの種類について

次亜にはEPDMが使える、使えない?

エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FPM)、ネオプレン(CR)、ハイパロン(CSM)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(AR)、シリコンゴム(Si)、ウレタンゴム(PUR)etc.
これらはゴムの種類のほんの一部です。ゴムには一般に可塑剤、増量剤等の充填剤が含まれており、その充填剤の種類や量が使用目的によって違います。従って、ゴムの種類は無限にあるといっても過言ではありません。メーカーでは、標準品にあたるものを、便宜上配合番号で管理しているものの、ユーザーの要望によって充填剤を増減しているのが現状です。
ここではEPDMとフッ素ゴムについてもっと詳しく見てみましょう。

EPDM

EPDMは、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体と呼ばれる非極性のゴムです。従って、非極性の有機溶剤には無条件で侵されます。石油や駆動油などにはたちまち膨潤し、溶解してしまいます。
次亜に対してはどうでしょう?
ゴムの種類が充填剤の種類と量によって無限に存在することはさきに述べましたが、EPDMも例外ではありません。この観点に立てば、次亜に対して耐えるかどうかは判断できないことになります。
ここでEPDMそのもの(純粋なもの)と充填剤とを切り離して考えることが必要になります。

→ 純粋なEPDMは液体の次亜塩素酸ナトリウムにはかなり強いが、条件によっては次亜のガスには侵される可能性がある。

EPDMはその名が示す通り、ポリエチレンやポリプロピレンの仲間です。従って、水に濡れない傾向にあり、しかも液体分子は比較的大きいのでゴム中に侵入しにくいと考えられます。このことから次亜塩素酸ナトリウムが液体の状態である限り、EPDMは侵されにくいといえます。
一方、ガス分子は液体分子に比べて遥かに小さいのでゴム中に容易に侵入できます。また次亜から発生したガス(次亜塩素酸ガスや発生期の酸素を含むガス)は酸化性が非常に強いのでEPDMの分子錯の一部を切断することになります。従って、ガスに長時間曝されるとEPDMが使用に耐えなくなることが起こり得ます。この現象は温度が高いほどまた圧力が高いほど起こりやすくなります。
つまり、EPDMをガスロック状態で長時間放置すると、酸化性ガスがEPDMに徐々に浸透し、分子錯を切断してしまう訳です。

→ 次亜を使用する場合は、金属酸化物を充填剤として使用してはならない。

金属酸化物は酸性であり、次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性なので両者が反応(中和反応)し、溶解してしまいます。その結果、EPDMはゴム製品(成形品)としての機能を失ってしまうことになります。

→ 市販のEPDMは使用しない方がよい。

以上のことから市販のEPDMは充填物が不明である限り使用すべきではありません。現状では安全のため次亜に対しては次のフッ素ゴム(過酸化物加硫以上)を使用することをおすすめします。

フッ素ゴム

フッ素ゴムもEPDMと同様、充填剤の配合によって多くの種類が存在します。
更に、フッ素ゴムは大きく分けて4つの加硫方法で製造されます。ここで加硫とは、分子間を架橋してつなげることによってゴム弾性を与えることを意味します。
4つの加硫方法とは、(1)アミン加硫、(2)ポリオール(アルコール系)加硫、(3)過酸化物加硫、(4)放射線加硫です。
(1)~(4)の順で耐食性が良くなります。少し詳しく言えば、アミン加硫の場合は加硫後もアミン結合(-NH-)が残るためこの部分で加水分解を受けます。従って、濃い酸やアルカリまた高温水などには使用できません。この点、ポリオール加硫ではやや改善されているものの安心して使用できるとは言えません。
これらに対して過酸化物加硫の場合は、加硫時に加えた加硫剤が揮散するため加水分解等の作用を受けにくくなります。言い替えれば、高分子全体としてC-F結合の割合が大きくなるため相対的に耐食性や耐熱性が高まるのです。放射線加硫の場合は更にC-F結合の割合が多くなり、性質がフッ素樹脂に近づきます。
結合の強さを示す結合解離エネルギーの値が、C-Nの69.7(kcal/mol)、C-Oの84.0(kcal/mol)、C-Hの98.8(kcal/mol)に対して、C-F結合の値は107(kcal/mol)なので、この割合が多いということはそれだけ耐熱性・耐食性が良好ということになります。

→ 次亜塩素酸ナトリウムに使用できるフッ素ゴムは過酸化物加硫および放射線加硫のものである。アミン加硫は使用できない。またポリオール加硫もダイヤフラムや弁座としては使用しない方がよい。

超高性能フッ素ゴムについて

4フッ化エチレン樹脂(PTFE)とほぼ同等の耐食性をもつフッ素ゴムは、ほとんどの薬液に対して耐性があり、耐食性に関してはオールマイティといって差し支えないでしょう。いわばゴム弾性をもつテフロンです。
またこのゴムは他の特性もPTFEに近く、復元性に欠けることを考慮する必要があります。