基礎講座|精密ポンプ技術 1-2. ダイヤフラムポンプ よく起こるトラブル

渦巻ポンプとの違い

「コントロールバルブを用いてのpH制御で、薬注ポンプとして渦巻ポンプからダイヤフラムポンプに交換したら、ダイヤフラムポンプや配管が破損した」

このトラブルは、渦巻ポンプとダイヤフラムポンプの特性の違いを最もよく表わしている好例です。
それでは違いを見ていきましょう。

渦巻ポンプの場合

 

仮にpH14の廃水を中和(pH7)制御している場合を考えてみます。

  1. pH14を示す信号20mAがpH計から送られてくると、コントロールバルブが全開となり、渦巻ポンプの流量は最大となります。
  2. pH値が低下してくるとpH計からの信号電流も次第に減少し、それに伴ってコントロールバルブの開度が狭まってきます。その結果、圧力損失が増大するため移送液が渦巻きポンプのケーシングと羽根車との隙聞から逆流し、吐出量が減少します。
  3. pHが7になると信号が4mAとなり、コントロールパルプが完全に閉じます。すると吐出量と逆流量が等しくなり、結果として流量がゼロになります。
    したがってポンプが作動していてもポンプの揚程以上に昇圧しなくなり、ポンプ部や配管が破損(破裂)することはほとんどありません。(ウォーターハンマー等による破損は別の問題です)

同じラインで渦巻ポンプをダイヤフラムポンプに変えた場合

(リリーフ弁は設置していないものとします)

 

  1. pH14を示す信号20mAがpH計から送られてくると、コントロールバルブが全開となります。
    したがってダイヤフラムポンプに対する影響はほとんどありません。(パルプの圧力損失のみ)
  2. pH値が低下してくるとpH計からの信号電流も次第に減少し、それに伴ってコントロールバルブの開度が狭まってきます。

ここまでは渦巻ポンプの場合と同じなのですが……
このあとが大きく異なります。逆止弁の働きを思い出してください。

『一旦、シリンダー(ポンプヘッド)内に入った液は、逆止弁の働きによって吐出側から無理やりにでも排出される』

したがって、どんなに大きな力でチャッキボールを押さえつけていようとも、どこかが壊れるまでシリンダー内の圧力が増大します。
つまり、コントロールバルブの開度が狭まったにもかかわらず、ダイヤフラムポンプからは一定量の液が吐出されるということです。そして、このときに非常に大きな圧力が発生し、ポンプや配管などに重大な影響をもたらします。
したがって、ダイヤフラムポンプの吐出量をコントロールバルブで制御しようというのは、大きな間違いと言えます。
コントロールバルブでダイヤフラムポンプの吐出量は変えられないということです。

このように、結果としてコントロールバルブを通過する際に圧力損失が増大します。
また一般にダイヤフラムポンプの吐出波形は、(図3)のようにサインカーブを描きます。これは吐出スピード(流速:瞬間流量)が一定ではなく、周期的に速くなったり遅くなったりしていることを意味します。

 

数字で示せば、最も流速が速いときは平均流速のπ倍(約3.14倍)になります。
さらにコントロールバルブ(ノズル部)の圧力損失は、大ざっぱにいえば開口部の直径の二乗に反比例して増大します。たとえば管径が半分になれば圧力損失は4倍になります。
このことからダイヤフラムポンプの吐出量をコントロールバルブで制御しようというのは、圧力が著しく増大する可能性があり、非常に危険であるといえます。

ダイヤフラムポンプの吐出量を制御する方法

コントロールバルブを使わずに吐出量を制御するには、どうすればよいでしょうか。

答えは、
『コントロールバルブを取り外し、ダイヤフラムポンプの回転数(ストローク数)を制御する方法に変える』

この方法は、ダイヤフラムポンプの1ストローク当たりの量を変えずにストロークの速さを変えて、結果としてトータル量(例えば1分間当たりの)を増減させるものです。
したがってpH計からの信号は、以下のような制御部に送られることになります。

  1. インバータ回転数制御方式
  2. サイリスタ回転数制御方式
  3. 無段変速機回転数制御方式

などがありますが、どの方式を採用するかは、液質、制御目的、予算などで変わります。
たとえば(図4)のようになります。

 

 

もしも、どこかの現場で渦巻ポンプをダイヤフラムポンプに変えることがあれば、いままで述べたことに充分留意して対処してください。
またダイヤフラムポンプのダイヤフラムが破れたり、吐出側の配管が破裂した現場では、修理の際に配管中にコントロールバルブが設けられていないか確認することも必要です。

ダイヤフラムポンプの揚程とダイヤフラムポンプの最高許容圧力

渦巻ポンプの揚程(押上揚程)が30mというのは、水を30m上方まで運ぶ能力があることを表します。したがって渦巻ポンプの吐出口からは、約0.3MPa に相当する圧力(エネルギー)を持った水が勢いよく噴き出します。
これに対してダイヤフラムポンプの量高許容圧力が0.3MPa というのは、圧力が0.3MPa以上になるとポンプが壊れる可能性があるということで、決してポンプの吐出口で0.3MPaの圧力がある訳ではありません。
ダイヤフラムポンプにかかる圧力は、吐出側の圧力(配管抵抗を含む)に従います。
つまりポンプにかかる圧力は、吐出側圧力が0.01MPa であれば0.01MPa、10MPaであれば10MPaになります。
慣例で、ダイヤフラムポンプの最高許容圧力のことを揚程と言うことがありますが、渦巻ポンプの揚程とは意味が異なることを理解しておいてください。

 

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