基礎講座|精密ポンプ技術 5-1. スムーズフローポンプ
今までダイヤフラムポンプには、脈動が必ず発生するものとして話を進めてきました。
確かにダイヤフラム(往復動)ポンプを解説した参考書には「ダイヤフラムポンプには必ず脈動が発生する」と書かれています。しかし、これは説明不足で、実は『ポンプヘッドが1連(シングルヘッド:ポンプヘッドが一つ)の場合は』という文が抜けているのです。
ということは、1連以外(2連や3連)のある構造にすれば『ダイヤフラムポンプであって、なおかつ無脈動』にすることができるということです。
3連式スムーズフローポンプ
「4-1. エアチャンバーの原理」の(図1)を思い出して下さい。脈動をなくすには図の空白部を埋めればよい、と述べました。そして、空白部を埋める一つの方法が、エアチャンバーを使用することでした。
ここで無脈動というのは『グラフの瞬間流速を示す線が、時間軸に対して一直線状になる』ということに注目してください。
したがって、何らかの方法で流量特性を(図1)のようにすれば良いことになります。
3つのエキセン軸を使用して駆動のタイミングを少しずつ(具体的には120°ずつ)ずらせば、各ポンプヘッドから吐出される液体の合成波形は直線に近くなります。
エキセン軸の動きを120°ずつずらせば、無脈動に近い状態が得られることがわかります。これはあくまでも120°でなければなりません。90°でも180°でも無脈動は得られません。
別々のポンプを3台使っても無脈動は得られるのか
ポンプが3台あるということは、モータも3台あるということです。
この場合は、それぞれのモータの回転数が完全に同じであれば良いのですが、現実には少しずつ異なります。
したがって、運転当初は3連それぞれの駆動のタイミングがうまくとれて無脈動が得られたとしても、しばらくすると波形がずれてきます。
つまり、脈動が発生し始めるということです。悪いことに1連の場合と比べて、なお一層大きな脈動となることがあります。
たとえば、駆動のタイミングが3連とも全く同じになれば(同期)、下図のように脈動が最大となります。
この状態になると脈動は非常に大きくなり、脈動に伴う現象(オーバーフィード・過大圧力の発生)が顕著に現われます。
このことから、ポンプを3台使って無脈動を得ることは事実上不可能である、と結論付けて良いでしょう。
※コストを無視すると、理論的にはモータの回転数を制御することにより可能です。
スムーズフローポンプ
タクミナは、独自の流体移送技術により、ポンプだけで脈動をなくす機構を開発しました。
スムーズフローポンプは、高精密等速度カムの採用で、脈動なく連続的な流れを生み出すことができ、無脈動、定量、高精度な送液を実現します。
定量性がある、幅広い薬液に対応するといったダイヤフラムポンプのメリットはそのままに、流体移送の不満を解消します。
動作原理
- (1)
モータの回転を減速機で減速します。
- (2)
回転運動を偏芯機構によってポンプシャフトの往復運動に変換します。
- (3)
ポンプシャフトの先端のダイヤフラムが往復運動すると、ポンプヘッド内の容積が増減します。
- (4)
ダイヤフラムが後方に移動するとき、ポンプヘッド内には負圧が発生します。この時、(図1)のように吐出側のチャッキボールは流路を閉じ、吐出側配管中からの薬液の逆流を防ぎます。一方、吸込側のチャッキボールは流路を開くため、吸込側からポンプヘッド内に薬液が流入することになります。
- (5)
次に、ダイヤフラムが前方に押出されると、ポンプヘッド内に正圧が発生するため吸込側のチャッキボールは流路を閉じ、吐出側は開となり薬液が吐出側へ排出されます。(図2)
2連式無脈動機構
偏芯機構に高精密等速度カムを用いることで、1つのポンプヘッドの吐出特性を(1)のような台形波形にしています。もう1つのポンプヘッドは(2)のように180°ずらせて運転することで合成波形が一定流となります。
なお、吸込側(図の下半分)は脈動を起こします。
タクミナの「スムーズフローポンプ」は、高精密等速度カムの採用で、脈動のない連続一定流を実現。あらゆるプロセスニーズに、多彩なラインアップでお応えします。
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