基礎講座|精密ポンプ技術 6-3. キャビテーションを起こさないためには
以前、ダイヤフラムポンプの脈動にまつわる問題点(「2-3. 脈動 慣性抵抗」、「3-1. オーバーフィード現象が原因で起こるトラブル」)を述べましたが、ここでもう一つの重要な問題であるキャビテーションについて説明します。
キャビテーションという用語は、本来渦巻ポンプなどの回転ポンプに使用されています。
キャビテーションとは本質的に異なりますが、理解を助けるために別の例をあげてみましょう。ビールのお話です。
冷蔵庫から出したばかりの良く冷えた瓶ビールです。もちろん栓をしたままです。このとき瓶の中のビールからは全く泡が出ていません。
ところが、栓を抜いたとたんに、ビールから泡が出てきます。
温度が高いときや瓶を激しく振ったときは多量の泡が噴き出します。これはいったいどういう訳でしょうか?
エアチャンバーのことを思い出してください。空気は圧力が高ければ高いほど液体中に多く溶け込む、ということをご説明しました。(以下、温度は一定とします)
ビールの場合は、「エアチャンバーがビール瓶」に、また「空気が炭酸ガス」に替わっただけで実質的に同じことです。
したがって、開栓前のビールの中には数気圧分の炭酸ガスが溶け込んでいることになります。そして開栓した途端に圧力が大気圧にまで低下するので、余分の炭酸ガスが泡となって出てくる訳です。
つまり、数気圧のもとでの溶解量と大気圧のもとでの溶解量との差が、もはやビールに溶け込むことができなくなり、泡となるのです。
この状態でしばらく静置すると次第に泡の発生が少なくなり、ついには全く泡が出なくなります。これは炭酸ガスの溶解量が、大気圧と釣り合ったことを意味します。決して、ビールの中の炭酸ガスが全くなくなってしまった訳ではありません。
炭酸ガスの溶解量が大気圧と釣り合ったビール(つまり気の抜けたビール)をダイヤフラムポンプで移送することを考えてみましょう。
いま貯蔵タンクのビールは気の抜けた状態、すなわち炭酸ガスが大気圧と釣り合う分だけ溶解した状態になっています。このときポンプはタンクの上に設置されているものとします。(図1)の(1)
ポンプが(2)のときは、ポンプヘッドの中の圧力が大気圧と釣り合っており、ビールから炭酸ガスが放出されることはありません。
次に(3)のようにダイヤフラムが後方に移動し、ポンプヘッド内部の圧力が低下するとどうなるでしょうか。(ボイルの法則:「4-1. エアチャンバーの原理」参照)
ズバリ、再び泡が発生します。
今度は低下した圧力のもとでの飽和量(ある圧力のもとで、もうこれ以上溶け込むことができなくなる量)になるまで余分の炭酸ガスが放出されます。この状態になるとポンプヘッド内にはビールだけでなく、泡となった炭酸ガスが入ってくることになり、ポンプの性能が著しく悪化します。また、吸込側の配管抵抗が大きくなれば、さらにガスが発生しやすくなります。
こんな場合は押し込み配管にすると効果的
したがって、ダイヤフラムが後方に移動しても、ガスを発生させることなくスムーズに、ビールがポンプヘッドの中に入ってくることになります。
ただし、吸込側配管での圧力損失が小さいことが条件です。具体的に言えば、ビールが高いところから低いところに流れようとする力が「ポンプヘッド内の圧力の低下分と吸込側配管などの圧力損失との合計」よりも大きければ、(気の抜けた)ビールから泡が発生することはない、ということです。
この方法は、ビールに限らず気泡を発生しやすい液体、たとえば炭酸水、次亜塩素酸ナトリウムなどにも有効です。