基礎講座|滅菌・殺菌 13-1. 塩素殺菌用ポンプの正しい使い方

現在、簡易水道から比較的大きな浄水場まで、塩素殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムが用いられております。次亜塩素酸ナトリウムは、従来の塩素ガスに比べて安全で取り扱いが容易なため、広く普及することになりました。しかしこの薬液を定量ポンプで移送する場合、いくつかの留意点があり、これを怠ると吐出不良・不能といったトラブルが発生します。
ここでは定量ポンプに焦点をあてて、トラブルを起こさない正しい使用方法について考えてみることにしましょう。

次亜塩素酸ナトリウム使用時の問題点

塩素殺菌の現場では次亜塩素酸ナトリウムの特性(ガスを発生しやすい等)に起因する以下のような問題が発生します。

  1. ガスがポンプ室内に滞留すると吐出不良または吐出不能(ガスロック現象)となることがある。
  2. 腐食性・浸透性が強いので、材質の腐食およびこれに起因する液洩れが発生する。
  3. タンク内で薬液そのものが分解し、有効塩素が低下する。(紫外線、温度上昇、不純物の混入などは分解を促進させます)
  4. 配管に不備(特に配管が長すぎる場合や細かすぎる場合)があると、薬液の過剰注入(オーバーフィード現象)を引き起こしやすい。
  5. 必要以上に大きなポンプを選定してしまった場合、濃度制御が不可能になる。

トラブルの防止

次亜塩素酸ナトリウムの注入には、一般に定量ポンプが用いられます。ここで重要なことは、定量ポンプはそれ単独で考えるのではなく、タンク→吸込側配管→ポンプ→吐出側配管→注入点、という一連の流れで考える必要があるということです。前もって以下のような留意点を考慮しておけば、トラブルの少ない理想的な注入が可能となります。

定量ポンプ選定上の留意点

  1. 必要以上に大きなポンプを選定しない。
    現時点で必要とされる以上の能力のポンプを選定すると、ストローク長を絞って使用することになり、次の2.の理由によってガスロック現象が起こりやすくなります。(例:将来の給水人口の増大を見込んだポンプ選定)
  2. ストローク長はできるだけ最大で使用する。
    ポンプヘッド内のガスを排出するためには、ストロークを長くして圧縮度を大きくすることにより、内圧を高くする必要があります。
  3. 吐出量を変える場合、モータの回転数の増減によるのが望ましい。
    2.の理由から、吐出量を小さくするには、ストローク長を最大にしたままモータの回転数を減じていくのが望ましいといえます。回転数を変える方法には、スピードコントロールモータや無段減速機付きモータ、また最近ではインバーターが多く用いられます。
    • ソレノイド駆動ポンプの場合は、パルス数を調整して吐出量を変更してください。
  4. タンクはできるだけ小さなものを選定する。
    特に夏場を考えてできるだけ短期日(10~20日程度)で次亜塩素酸ナトリウムを使いきるようご配慮ください。

    参考:次亜塩素酸ナトリウムの注入量の目安

    塩素消費量が0であると仮定したときの注入量は次式で求められます。

    注入量(mL/min) = 1/1,000,000 × 目標mg/L × 処理水量(mL/min)× 希釈倍率 × 100/NaClO%

配管上の留意点

ポンプを正しく活用するには、配管条件を適正にする必要があります。

  1. 押し込み配管(ポンプ下置き)で使用する。

    押し込み配管(ポンプ下置き)とは、図のようにポンプをタンクよりも低い位置に設置することをいいます。このようにすることで薬液がポンプ内にスムーズに流入し、圧縮度も大きくなりますのでガスロック現象等のトラブルも発生しにくくなります。

    • 液中ポンプ(ガスロックレスポンプ)GLXは、ポンプ部を液中に浸漬させることにより、押し込み条件をタンク内で実現したものです。また圧縮度が極めて大きくなるようデッドスペースを小さく設計していますので、次亜塩素酸ナトリウムに最適なポンプといえます。原液注入・微量注入の場合は、特にGLXをご推奨します。
  2. 配管(ホース)をできるだけ短くする。
    吸込側配管を短くすると、圧力損失が小さくなるだけでなく、結果として配管内部で発生、蓄積するガスの量を最少にすることができます。このためポンプヘッドに流入するガスの量もきわめて少なくなります。
    吐出側配管を短くすると、圧力損失に伴う管内圧力がそれほど大きくならないため、ガスロック現象が起こりにくくなります。

設置上の留意点

  1. 直射日光を避ける。
    次亜塩素酸ナトリウムは、直射日光による温度上昇や紫外線によって分解が著しく進みます。このためタンクやポンプは直射日光に曝さないための配慮が必要となります。(屋内設置、日除け対策)
  2. 酸性物質を近くに置かない。
    次亜塩素酸ナトリウムに硝酸、塩酸、PAC(ポリ塩化アルミニウム)など酸性物質が混入するとpH値が低下し、猛毒の塩素ガスが発生します。塩素ガスは周囲の設備や建築物を腐食させるだけでなく、人体に対しても甚大な影響を与えます。
  3. ほこりやゴミなどがタンク内に入らないよう配慮する。
    これらの異物はポンプ弁座のシール性を低下させるだけでなく、詰まりの原因にもなります。また次亜塩素酸ナトリウムの分解を促進します。

次亜塩素酸ナトリウムの希釈に関する留意点

  1. 地下水や井戸水をそのまま希釈水として使用しない。
    地下水中には一般に鉄、マンガン、カルシウム等が含まれています。これらは次亜塩素酸ナトリウムと反応すると、水酸化物のスラリーを発生させます。このスラリーは沈殿物となり、次亜塩素酸ナトリウムの分解を促進したり、ポンプの弁座部のシール性を低下させ、ポンプ自体の性能を著しく損なうことになります。
    次亜塩素酸ナトリウムを希釈する際は、水道水を用いるか、それができない場合は一旦地下水を次亜塩素酸ナトリウムで処理し、うわ水を使用してください。
  2. 希釈後の最低濃度は1%程度とする。
    定量ポンプの吐出量との関係でどうしようもない場合以外は、できるだけ1%以上の濃度となるよう調整してください。

メンテナンス上の留意点

ポンプやその周辺設備を長く使用するためには保守管理が必要となります。
特に次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、次のような定期管理を行うことが大切です。

  1. ポンプ及びタンクは、メンテナンスがしやすいように充分なスペースを取っておくこと。
  2. 定期的にバルブ・ストレーナ等のゴミ詰まりやスラッジ分を取り除く。
  3. 定期的に薬液タンクを洗浄する。
  4. 配管中に洗浄水ラインを設ける。

安全上の留意点

次亜塩素酸ナトリウムに限らず、薬品を取り扱う場合は必ず以下のことを守ってください。

  1. 作業時には必ず保護具(保護メガネ、保護手袋など)を装着すること。
  2. バルブやコックには、部外者が触れないよう表示すること。
  3. 通路の上方に配管しないこと。(ホースが破損しても人にかからない対策を講じること)
  4. 大量に洩れた場合は直ちに修理、詰め替え還元分解などの処置を講ずるか、大量の水で洗い流します。次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性のため酸によって中和することがありますが、この際、予め塩素ガスに対する対策を講じておく必要があります。

応急処置について

目に入った場合

直ちに多量の水で数分間注意深く洗眼し、医師の診断を受けます。清浄なぬるま湯の方が目の痛みが少ないとされています。

皮膚についた場合

誤って人体、衣服についた場合は直ちに大量の水で洗い流す。

飲み込んだ場合

炭酸水素ナトリウム(重曹)30~50g/Lの水溶液、または多量の水を飲ませ、吐き出します。そして速やかに医師の診断を受けてください。

吸入した場合

塩素ガスを吸い込んだ場合は次のように処置します。

  1. せきが出る程度の時は、新鮮な空気の風通しの良いところで身体を楽にして休息させます。
  2. 重症の場合は、直ちに医師を呼んでその指示に従ってください。