基礎講座|精密ポンプ技術 9-4. 摩擦抵抗の計算<計算例1・2・3>

計算例1

粘度:500mPa・s(比重1)の液をモータ駆動定量ポンプFXD1-08-VESE-FVSを用いて、次の配管条件で注入したとき。
吐出側配管長:20m、配管径:20A = 0.02m、液温:20℃(一定)

  • «手順1»
    ポンプを(仮)選定する。
    既にFXD1-08-VESE-FVSを選定しています。
  • «手順2»
    計算に必要な項目を整理する。(液の性質、配管条件)
    • (1)
      粘度:μ = 500mPa・s
    • (2)
      配管径:d = 0.02m
    • (3)
      配管長:L = 20m
    • (4)
      比重量:ρ = 1000kg/m3
    • (5)
      吐出量:Qa1 = 1L/min(60Hz)
    • (6)
      重力加速度:g = 9.8m/sec2
  • «手順3»
    管内流速を求める。
    式(3)にQa1とdを代入します。

    管内流速は1秒間に流れる量を管径で割って求めますが、往復動ポンプでは平均流量にΠ(3.14)をかける必要があります。

  • «手順4»
    動粘度を求める。式(6)

  • «手順5»
    レイノルズ数(Re)を求める。式(4)

  • «手順6»
    レイノルズ数が2000以下(層流)であることを確かめる。
    Re = 6.67 < 2000 → 層流
    レイノルズ数が6.67で、層流になるのでλ = 64 / Reが使えます。
  • «手順7»
    管摩擦係数λを求める。式(5)

  • «手順8»
    hfを求める。式(1)

    配管長が20mで圧損が0.133MPa。吸込側の圧損を0.05MPa以下にするには…
    20 × 0.05 ÷ 0.133 = 7.5m
    よって、吸込側の配管長さを約7m以下にします。

  • «手順9»
    △Pを求める。式(2)
    △P = ρ・g・hf ×10-6 = 1000 × 9.8 × 13.61 × 10-6 = 0.133MPa
  • «手順10»
    結果の検討。
    △Pの値(0.133MPa)は、FXD1-08の最高許容圧力である1.0MPaよりもかなり小さい値ですので、摩擦抵抗に関しては問題なしと判断できます。
    • 吸込側配管の検討
      ここで忘れてはならないのが吸込側の圧力損失の検討です。吐出側の許容圧力はポンプの種類によって決まり、コストの許せる限り、いくらでも高圧に耐えるポンプを製作することができます。
      ところが吸込側では、そうはいきません。水を例にとれば、どんなに高性能のポンプを用いてもポンプの設置位置から10m以下にあると、もはや汲み上げることはできません。(液面に大気圧以上の圧力をかければ別です)。これは真空側の圧力は、絶対に0.098MPa以下にはならないからです。しかも配管内やポンプ内部での圧力損失がありますので、実際に汲み上げられるのは5~6mが限度です。
      (この他に液の蒸気圧やキャビテーションの問題があります。しかし、一般に高粘度液の蒸気圧は小さく、揮発や沸騰は起こりにくいといえます。)
      10-3. 摩擦抵抗の計算」で述べたように、吸込側は0.05MPa以下の圧力損失に抑えるべきです。
      この例では、配管20mで圧力損失が0.133MPaなので、0.05MPa以下にするためには

      から、配管を7.5m以下にすれば良いことになります。
      (現実にはメンテナンスなどのために3m以下が望ましい長さです。)

計算例2

粘度:3000mPa・s(比重1.3)の液をモータ駆動定量ポンプFXMW1-10-VTSF-FVXを用いて、次の配管条件で注入したとき。
吐出側配管長:45m、配管径:40A = 0.04m、液温:20℃(一定)

油圧ポンプで高粘度液を送るときは、油圧ダブルダイヤフラムポンプにします。ポンプヘッド内部での抵抗をできるだけ小さくするためです。

  • «手順1»
    ポンプを(仮)選定する。
    既にFXMW1-10-VTSF-FVXを選定しています。
  • «手順2»
    計算に必要な項目を整理する。(液の性質、配管条件など)
    • (1)
      粘度:μ = 3000mPa・s
    • (2)
      配管径:d = 0.04m
    • (3)
      配管長:L = 45m
    • (4)
      比重量:ρ = 1300kg/m3
    • (5)
      吐出量:Qa1 = 12.4L/min(60Hz)
    • (6)
      重力加速度:g = 9.8m / sec2
  • «手順3»
    管内流速を求める。
    式(3)にQa1とdを代入します。

  • «手順4»
    動粘度を求める。式(6)

  • «手順5»
    レイノルズ数(Re)を求める。式(4)

  • «手順6»
    レイノルズ数が2000以下(層流)であることを確かめる。
    Re = 8.99 < 2000 → 層流
  • «手順7»
    管摩擦係数λを求める。式(5)

  • «手順8»
    hfを求める。式(1)

  • «手順9»
    △Pを求める。式(2)
    △P = ρ・g・hf × 10-6 = 1300 × 9.8 × 109.23 ×10-6 = 1.39MPa
  • «手順10»
    結果の検討。
    △Pの値(1.39MPa)は、FXMW1-10の最高許容圧力である0.6MPaを超えているため、使用不可能と判断できます。
    そこで、配管径を50A(0.05m)に広げて、今後は式(7)に代入してみます。

    これは許容圧力:0.6MPa以下ですので一応使用可能範囲に入っていますが、限界ギリギリの状態です。そこでもう1ランク太い配管、つまり65Aのパイプを使用するのが望ましいといえます。
    このときの△Pは、約0.2MPaになります。

    管径の4乗に反比例するため、配管径を1cm太くするだけで抵抗が半分以下になります。

計算例3

粘度:2000mPa・s(比重1.2)の液をモータ駆動定量ポンプFXD2-2(2連同時駆動)を用いて、次の配管条件で注入したとき。
吐出側配管長:10m、配管径:25A = 0.025m、液温:20℃(一定)
ただし、吐出側配管途中に圧力損失:0.2MPaのスタティックミキサーが設置されており、なおかつ注入点が0.15MPaの圧力タンク内であるものとします。

2連同時駆動とは2連式ポンプの左右のダイヤフラムやピストンの動きを一致させて、液を吸い込むときも吐き出すときも2連同時に行うこと。
吐出量は2倍として計算します。

  • «手順1»
    ポンプを(仮)選定する。
    FXD2-2(2連同時駆動)を選定。
  • «手順2»
    計算に必要な項目を整理する。(液の性質、配管条件など)
    • (1)
      粘度:μ = 2000mPa・s
    • (2)
      配管径:d = 0.025m
    • (3)
      配管長:L = 10m
    • (4)
      比重量:ρ = 1200kg/m3
    • (5)
      吐出量:Qa1 = 1.8 × 2 = 3.6L/min(60Hz)
      2連同時駆動ポンプは1連式と同じくQa1の記号を用いますが、これは2倍の流量を持つ1台のポンプを使用するのと同じことと考えられるからです。(3連同時駆動の場合も3倍の値をQa1とします。)
    • (6)
      重力加速度:g = 9.8m/sec2
  • «手順3»
    管内流速を求める。
    式(3)にQa1とdを代入します。

  • «手順4»
    粘度の単位をストークス(St)単位に変える。式(6)

  • «手順5»
    レイノルズ数(Re)を求める。式(4)

  • «手順6»
    レイノルズ数が2000以下(層流)であることを確かめる。
    Re = 5.76 < 2000 → 層流
  • «手順7»
    管摩擦係数λを求める。式(5)

  • «手順8»
    hfを求める。式(1)

  • «手順9»
    △Pを求める。式(2)
    △P = ρ・g・hf × 10-6 = 1200 × 9.8 × 33.433 × 10-6 = 0.393(MPa)
  • «手順10»
    結果の検討。
    摩擦抵抗だけをみるとFXD2-2の最高許容圧力(0.5MPa)と比べてまだ余裕があるようです。しかし配管途中にはスタティックミキサーが設置されており、更に吐出端が圧力タンク中にあることから、これらの圧力の合計(0.2 + 0.15 = 0.35MPa)を加算しなければなりません。
    したがってポンプにかかる合計圧力(△Ptotal)は、
    △Ptotal = 0.393 + 0.35 = 0.743(MPa)
    となり、配管条件を変えなければ、このポンプは使用できないことになります。
    • ここでスタティックミキサーと圧力タンクの条件を変更するのは現実的には難しいでしょう。したがって、この圧力合計(0.35MPa)を一定とし、配管(パイプ)径を太くすることによって圧力損失を小さくする必要があります。つまり配管の圧力損失を0.15(0.5 - 0.35)MPa以下に低下させなければならないということです。
      式(7)を変形すると

      となります。

式(7')にμ(2000mPa・s)、L(10m)、Qa1(3.6L/min)、△P(0.15MPa)を代入すると

となります。
この結果は、配管径が0.032m以上あれば、このポンプ(FXD2-2)を使用できるということを意味しています。
ただし0.032mという規格のパイプは市販されていませんので、実際に用いるパイプ径は0.04m(40A)になります。

ちなみに40Aのときの圧力損失は、式(7)から0.059MPaが得られます。合計でも0.41MPaとなり、使用可能範囲内まで低下します。

配管中に背圧弁がある場合は、その設定圧力の値を、また立ち上がり(垂直)配管の場合もヘッド圧の値をそれぞれ圧力損失の計算値に加算する必要があります。

この例では、圧力損失の計算値に背圧弁の設定圧力と垂直部のヘッド圧とを加算すれば、合計圧力が求められます。
つまり
△Ptotal = △P + 0.15 + 0.059 = 0.059 + 0.21 = 0.27MPa
ということです。

水の場合だと10mで0.098MPaなので5mは0.049になります。
そして比重が水の1.2倍なので0.049×1.2で0.059MPaになります。

配管が斜めになっている場合は、配管長には実長を用いますが、ヘッドとしては高低差のみを考えます。

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